(英エコノミスト誌 2025年5月31日号)

危機は突然訪れるかもしれない(写真はウォール街、Alexander NaumannによるPixabayからの画像)

ドナルド・トランプが危機を経験したことがないシステムを極度のストレスにさらしている。

 危険な時期にいつも避難所になっていた米国が自ら不安定性の供給源になった。

 懸念のリストは長い。例えば政府債務が憂慮すべきペースで増えている。通商政策は数々の訴訟や不確実性に見舞われている。

 ドナルド・トランプ大統領は自国の制度・機関を攻撃している。外国人投資家は神経質になり、米ドルが下落している。

 しかし、驚いたことに、大きな危険がまだ1つ、気づかれないまま残っている。

 金融リスクについて考える時、読者が頭に思い浮かべるのはウォール街の投資銀行の不正行為やマイアミのサブプライム住宅ローンかもしれない。

 だが、本誌エコノミストが今週号の特別リポートでお伝えしているように、米国金融業界はここ10年間で様変わりした。

 資産運用会社、ヘッジファンド、プライベートエクイティー(PE=未公開株)投資会社、トレーディング会社といった新興勢力――例えばアポロ、ブラックロック、ブラックストーン、シタデル、ジェーン・ストリート、KKR、ミレニアムなど――が陰から姿を現し、既存の金融機関を押しのけて前に出てきている。

 これらの企業は銀行や保険会社、古いスタイルのファンドなどとは根本的に異なる。おまけに規模が大きく複雑なうえ、危機によって真価を試されたことがない。

新興勢力の驚異の台頭

 金融革命は今、MAGA(米国を再び偉大にする)運動の革命に直面している。

 トランプ氏が貿易を大混乱に陥れたり、世界に対する米国のコミットメントを翻したり、そして何より借金による政府のどんちゃん騒ぎを延長したりすることで、次の金融危機の到来を早めている。

 米国の金融システムは昔から支配的だったが、そのシステムと世界との関わり方は今日、かつてなかったほど大きくなっている。

 誰もがこのシステムの脆弱性を懸念する必要がある。

 新興勢力は金融界の優秀な人材を引き寄せる磁石だ。規制の面でも有利な立場にある。

 2007~09年の金融危機後に各国政府は銀行に自己資本の積み増しを義務づけ、トレーディングについて規制を強化したからだ。

 この組み合わせの結果、数多くのイノベーションが生み出され、新興勢力の成長を加速させたり、金融業界の隅々への進出を促したりした。

 プライベートキャピタル大手3社――アポロ、ブラックストーン、KKR――が現在抱える資産は計2兆6000億ドルで、10年前のほぼ5倍に達している。

 同じ10年間に大手銀行の資産は14兆ドル増えたが、率にすれば50%増にすぎない。

 新興勢力は安定性の高い資金を求めて保険業界に手を伸ばした。

 PE事業で名を上げ、2022年に傘下の保険会社と合併したアポロは、今ではアニュイティ(個人年金保険)の契約件数が米国のどの保険会社よりも多くなっている。

 新興勢力は個人と米インテルのような優良企業にも融資を行っている。

 昨年はアポロだけで2000億ドルもの資金を貸し付けた。一方、大手銀行の融資残高の合計は1200億ドルしか伸びていない。

 また、新興のトレーディング会社は個別銘柄の売買とマーケットメークを牛耳っている。

 ジェーン・ストリートが2024年に計上したトレーディング収入は既存の大手モルガン・スタンレーのそれと同レベルだった。