(英エコノミスト誌 2025年5月10日号)

ヨーロッパ人の多くはロシアの脅威について慢心し、ロシア大統領を抑止する方法を誤解している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5月9日、モスクワの赤の広場でナチス・ドイツを倒した戦勝記念日を祝う予定になっていた。
かつては第2次世界大戦の同盟国もパレードに参加していた。
今では、プーチン氏がウクライナの「ナチス」政権を倒すというばかげた目標を掲げており、パレードはロシアが西側陣営に決然と立ち向かう方法を示唆するものになる。
欧州のすべての国にとって憂うべき事態だ。
ウクライナでの死者の数が増えるにつれ、プーチン氏の戦争目的は大きくなってきた。ロシアの損害を正当化するためだ。
当初は隣国での「特別軍事作戦」だったものが、遠く離れた敵を相手に回したロシアの存亡を賭けた戦いになっている。
実に重大な変化だ。
これはウクライナの将来がドナルド・トランプ米大統領の芝居がかった外交よりもプーチン氏の野心の方に大きく左右されることを意味する。
また、多くのヨーロッパ人がロシアの脅威について慢心しており、プーチン氏を思いとどまらせる方法を誤解していることも意味している。
ロシアの脅威に対する温度差
ロシアが近く欧州のほかの国に侵攻するわけではないかもしれない。
だが、サイバー攻撃や影響工作、暗殺、破壊工作などを強化することによって影響力を手に入れようとはするだろう。
また、もしプーチン氏が北大西洋条約機構(NATO)の弱点に気づいたら、加盟国の領土の一部を占領して挑発し、NATOを分裂させようとする恐れもある。
2~5年後にはその準備が整う可能性がある。まだ先の話だと思えるかもしれないが、軍事計画の世界では「あっという間」に等しい。
こうした話を耳にすると、米国や欧州南部の人々の多くは恐らくヒステリックだと思うだろう。
スティーブ・ウィトコフ米中東特使のように、プーチン氏は信頼できるとか、トランプ氏がまとめようとしている和平協定を踏みにじるまねはしないなどと言う人もいる。
またその一方で、過去25年間に5度も戦争の挙に出た人物は信頼できないとする賢明さがありながらも、ロシアは弱いから大した脅威はないと話す向きもある。
確かにロシアはウクライナでほぼ100万人もの死傷者を出しているし、侵攻直後の数週間では各地を占領できたものの、その後はウクライナの領土の1%弱しか奪えていない。
これとは逆に、バルト諸国やポーランド、北欧諸国では多くの人々がロシアを極度に恐れている。
ロシアの脅威はプーチン以上だ、あの国の帝国主義は根が深いと警鐘を鳴らしている。
ロシアに虐げられた歴史を思えばこの恐怖心は理解できるが、ロシアへのアプローチの仕方としては間違っている。
これでは、NATOは救いがたいほどの反ロシアだというプーチン氏のメッセージを補強してしまうだけでなく、欧州がデタント(緊張緩和)のチャンスを逸する恐れも高まるからだ。