(英エコノミスト誌 2025年5月17日号)

前編「『暗号資産の冬』も今は昔、目を見張る急成長の裏にトランプ一族の利益相反」から読む
暗号資産はボラティリティー(変動性)が大きく、所有権がらみの不確実性もあるため、トランプ一族の財産のうちどの程度が暗号資産に結び付いているのかを正確に算定するのは困難だ。
ただ、今では暗号資産が一族最大の事業部門になっている可能性がある。
保有している$トランプのミームコインだけでほぼ20億ドルの価値があり、すべての不動産とゴルフコース、クラブなどの合計額と比べてもさほど引けを取らないからだ(図3参照)。

資金を湯水のごとくつぎ込む巨大政治団体
暗号資産の名誉回復を助けたのはトランプ一族だけではない。
俗に「スーパーPAC」と呼ばれる規模の大きな政治活動委員会(特定の候補者に属さずに政治活動を行う政治資金管理団体)も暗号資産業界の利益を促進するために資金を湯水のごとく使っている。
提携関係にあるプロテクト・プログレス、フェアシェイク、ディフェンド・アメリカン・ジョブズは昨年の選挙期間中に1億3000万ドルを超える資金を使い、支出額ランキングの上位に名を連ねた。
3団体とも2000年の大統領選挙以降に設立されたものだ。
昨年の選挙戦の間に2億6000万ドルの資金を調達したフェアシェイクは、特定の業界を支援するスーパーPACの最大手であるだけでなく、超党派のスーパーPACとしても最大手だ。
ちなみに、全米不動産業者協会(NAR)が調達した資金は約2000万ドルだった。
フェアシェイクへの献金が最も多かった企業はリップルとコインベースで、個人では大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツを率いるマーク・アンドリーセン氏とベン・ホロウィッツ氏の献金が最多だった。
フェアシェイクは選挙戦で暗号資産に対する候補者の見解を強調するのではなく、お気に入りの政治家の人気を押し上げる一方で嫌いな政治家の足を引っ張る可能性のある争点に的を絞って意見広告を打っている。
例えば、カリフォルニア州の民主党上院議員候補者予備選挙に立候補したケイティ・ポーター下院議員については、自分の選挙運動への寄付者の名簿を売ろうとしたと批判し、同議員の敗退の一助となった。
また、ニューヨーク州のパット・ライアン下院議員(民主党)は犯罪に厳しい姿勢で臨んでいると称賛し、支援した。
「これは多くの業界が試みてきたことだ。違うのは焦点を1つに絞ること。それがゲームの形勢を変えた」
フェアシェイクの広報担当者ジョシュ・ブラスト氏はこう語った。
「支援者を支援し、反対者に反対する。これが創設時の戦略であり、今でもそうだ」