
ウクライナ保安庁(SBU)は、2025年6月1日に「スパイダーウエブ(蜘蛛の巣)」作戦と名付けられた大規模な作戦を実施した。
この作戦は、長距離ミサイルではなく安価なドローンでロシア奥深くに配置された戦略爆撃機や早期警戒機などの重要な航空資産を標的とした点で画期的である。
「蜘蛛の巣」作戦は、今後の戦争の動向やロシアの戦略核戦力の行方など多方面に影響を与える可能性がある。
この「蜘蛛の巣」作戦は歴史的に稀有な作戦であり、ロシア軍の航空機41機を破壊・損傷し、戦略爆撃機の34%に損害を与えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、この作戦を「輝
かしい成果であり、歴史の教科書に記録される。米国における『ウクライナは戦争に負けていて、カードを持っていない』という認識を変えた」と述べている。
ロシアの戦略爆撃機や早期警戒機に大きな損害を与えたとすれば、ロシアの空軍力と核運用能力に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
一方、この作戦で与えた損害が即座に直接的にロシア軍のウクライナ攻撃を停止させることはできないだろう。
この戦争の最も重要な戦いは依然として地上戦だ。
現在、ロシア軍の夏季攻勢が始まっていると思われるが、ロシア軍の狙いはウクライナ領土の奥深くまで前進することだ。
現在までのところ、ロシア軍の大きな前進は見られない。しかし、ウラジーミル・プーチン大統領が戦争遂行を即座に停止することは考え難い。
ウクライナ軍としては、ロシア軍の攻撃を断固として阻止し、ロシアに膨大なコストを強要しなければいけない。
これらのコストには、ロシアのグローバルな戦力投射能力の低下、重要な地政学的勢力としての地位を維持する能力の低下が含まれる。
その意味で、「蜘蛛の巣」作戦の成果は非常に重要だ。本稿においては、「蜘蛛の巣」作戦の実態とその影響について記述する。
作戦の計画と準備
「蜘蛛の巣」作戦は、1年半以上の準備期間を要した非常に緻密な作戦であり、ゼレンスキー大統領の直接監督とSBU(ウクライナ保安庁)長官ヴァシル・マリュク氏の指導の下で計画準備された。
ウクライナの工作員は、多数のAI制御FPV(First Person View=一人称視点)ドローンを秘密裏にロシア国内に運び込むために、秘密の物流ネットワークを構築した。
その際にドローンは、第三国を経由してロシアに運び込まれた可能性がある。
オレニャ基地(ムルマンスク州)向けにはフィンランド、ベラヤ基地(イルクーツク州)向けにはモンゴルを経由したと思われる(図1参照)。
図1 蛛の巣作戦のターゲットになった空軍基地
