1996年7月15日、川崎競馬場、エンプレス杯でのホクトベガと横山典弘騎手 写真/産経新聞社

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

3冠牝馬リバティアイランドの客死

 去る5月26日、朝日新聞朝刊スポーツ面、ではなく社会面にカラー写真入りで〈おかえり「お嬢さん」〉と題された記事が掲載されていました。

 見出しの「お嬢さん」には「リバティアイランド」とフリガナが振られていて、4月に香港で行われた競馬のG1レース中に故障し安楽死となった2023年の3冠牝馬、リバティアイランドの遺骨が帰国したことを告げる内容でした。

 同記事はオークス開催の翌日に合わせた掲載でしたが、すでに遺骨とたてがみは5月の連休までには帰国し、馬主(サンデーレーシング代表・吉田俊介氏)のもとに戻って来たようです。

 スポーツ紙でもなく一般紙のスポーツ欄でもなく社会面にカラー写真入りの7段記事が掲載されることは極めて珍しいことだと思います。

「お嬢さん」、それはデビューから全12戦すべて同馬に騎乗した川田将雅(ゆうが)騎手が親しみを込めて付けた愛称でした。

 今回の訃報を耳にした多くの競馬ファンにとって、リバティアイランドが引退後にどんな馬たちを世に出してくれるのかという夢が奪われただけに、その落胆は大きなものでした。

 今世紀に入ってからJRAの牝馬3冠に輝いた名馬といえば、2003年のスティルインラブ、2010年のアパパネ、2012年のジェンティルドンナ、2018年のアーモンドアイ、2020年のデアリングアクトがいます。

 スティルインラブは引退した翌々年の2007年に牡馬を出産し(父・キングハメハメハ)、その半年後に病死、忘れ形見の牡馬はジューダ(ユダの意)という馬名でJRA及び地方競馬に登録され2勝して引退、その後は福島県相馬市で行われている相馬野馬追(そうまのまおい)という祭礼で神事の仕事に仕えているそうです。神道に改宗してもきっと母親が見守ってくれていることでしょう。 

 アパパネの娘、アカイトリノムスメ(父・ディープインパクト)は2021年の秋華賞に勝利しG1母娘制覇を果たしています。ジェンティルドンナの娘、ジェラルディーナ(父・モーリス)も2022年のエリザベス女王杯に勝利し、G1母娘制覇を成し遂げています。

 アーモンドアイの初仔、アロンズロッド(父・エピファネイア)は昨年(2024)デビュー、3歳になった今年、未勝利戦で初勝利を挙げていますが、骨折が判明、現在静養中のため残念ながら春の3歳クラシックレースには出走できませんでした。

 デアリングアクトからは今年(2025)、牡馬が誕生したので(父は英国競走馬だったベンバトル)、3年後が楽しみです。

 リバティアイランドに関しては競馬の楽しみの一つでもある「受け継がれてゆく血統」が失われたことは本当に残念ですが、命を懸けて走り抜き、散っていった「お嬢さん」に、今は「おつかれさま。そして、ありがとう」の言葉を掛けてあげたい気持ちでいっぱいです。