「クリエイターエコノミー」の中核に

 ユーチューブの成功を支える大きな要因は、世界中の「クリエイター」と呼ばれる動画投稿者たちだ。ユーチューブ自体がコンテンツ制作に巨額を投じる必要はなく、クリエイターが投稿する多種多様な動画がプラットフォームの価値を高めている。

 ユーチューブはこの「クリエイターエコノミー」に対し、24年までの3年間で700億ドル(約10兆円)以上を支払ったと、CEO(最高経営責任者)のニール・モーハン氏は明らかにしている。ユーチューブは多くの人々にとって、自己表現の場であると同時に、新たな職業(プロフェション)や収入源を生み出す巨大な経済圏(エコシステム)となっている。

持ち株会社アルファベットの成長エンジン、相乗効果も

 ユーチューブは、持ち株会社である米アルファベットにとっても重要な存在だ。中核の検索事業がAI(人工知能)チャットボットなどの新技術による圧力にさらされる中、ユーチューブはクラウドコンピューティング部門「Google Cloud」と共に、アルファベットの短中期の成長をけん引するエンジンと位置づけられる。両事業でアルファベット総収益の3割以上を稼ぎ出す。

 RBCキャピタルマーケッツのアナリスト、ブラッド・エリクソン氏は「ユーチューブはグーグルの事業内部にあることで恩恵を受けている。他事業から得られるユーザーデータが広告ターゲティング能力を大幅に高めている」と指摘。グーグルの持つ検索データや技術基盤との相乗効果が、ユーチューブの競争力を一層高めている側面もある。

TikTokとの競争、独禁法リスクが課題

 輝かしい成功の一方で、ユーチューブは大きな課題にも直面している。1つは、若年層を中心に絶大な人気を誇る中国発の動画投稿アプリ「TikTok」との激しい競争だ。ユーチューブは対抗策として短尺動画「Shorts(ショート)」に力を入れるが、視聴時間は伸びても収益化には苦戦しており、「収益増の足かせになっている」(モフェットネイサンソン)との指摘もある。

 さらに深刻なのが、独占禁止法(反トラスト法)を巡る司法リスクだ。2025年4月17日、米連邦地裁はグーグルがオンライン広告市場で違法な独占状態にあったと認定した。米司法省が求める是正措置の内容によってはアルファベットがユーチューブ事業の売却を強制される可能性もゼロではない。

 専門家の間では、グーグルが市場競争を促進するため、自社が管理する特定のメディアに対する制限を緩和することになる、との見方もある。しかしながら、事業分割のリスクも依然として残る。

 設立20年を迎え、メディアの頂点に立とうとしているユーチューブ。その巨大な成功の裏で、激化する競争と規制当局からの厳しい監視という逆風にもさらされている。