AI開発「利益優先」の危うさ シリコンバレー巨大テック、安全性・研究軽視か 専門家警鐘
AI覇権争い暴走の瀬戸際 安全性確保へ業界の自制問われる
AI開発で世界をリードする米シリコンバレーの巨大テック企業が、AI製品の市場投入と短期的な利益を優先するあまり、安全性確保や基礎研究を軽視している――。
米CNBCの報道によると、このような強い懸念が業界の専門家や元従業員らから相次いで示されている。
こうした懸念の背景には、2022年末の米オープンAIによる「ChatGPT」リリース以降、激化したAIサービスの開発競争がある。
専門家らは、この「製品化第一主義」が、AIモデルの不適切な利用や予期せぬ動作といったリスクを高めると指摘。
人間と同等かそれ以上の知能を持つAGI(汎用人工知能)の実現を急ぐ中で、社会全体に計り知れない影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らしている。
加速する「製品化」、置き去りの「安全」
CNBCの取材に応じた十数人のAI専門家や元従業員らは、シリコンバレーのAI業界が、かつての基礎研究重視の姿勢から、急速に収益化を目指す製品開発へと軸足を移したと口をそろえる。
一部アナリストは、AI関連市場が2028年までに年間1兆ドル(約150兆円)規模に達すると予測しており、この莫大な利益への期待が開発競争を加熱させている。
しかし、その代償は大きい。
業界専門家によれば、競争の圧力から、多くのテック企業がAIモデルを一般公開する前の厳格な安全性テストを省略したり、その期間を大幅に短縮したりする「手抜き」が横行しているという。
アイルランドのサイバーセキュリティー企業カリプソAI(CalypsoAI)のジェームズ・ホワイトCTO(最高技術責任者)は、「現在のAIモデルは性能が向上している反面、爆弾の製造方法の教示や機密情報の漏洩など、悪意のある指示にも応答しやすく、悪用されるように誘導することもある」とし、AIの「有害能力」向上に強い危機感を示す。
メタ:研究部門縮小、製品開発へ急傾斜
フェイスブックの親会社である米メタでは、AI研究の方向転換が顕著だ。
同社のAI基礎研究部門「FAIR」は、マーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が2023年を「効率化の年」と宣言して以降、製品開発を担う「Meta GenAI」部門の陰に追いやられている。
FAIRの責任者だったジョエル・ピノー氏や、主要ディレクターのキム・ヘイゼルウッド氏の相次ぐ退社は、この流れを象徴する出来事と元従業員らはみている。
ChatGPTの成功に衝撃を受けたメタ経営陣は、大規模言語モデル(LLM)「Llama」ファミリーの開発と製品化を急加速。
その結果、かつては医療AIなど長期的な基礎研究も手掛けていたFAIRのリソース(計算資源や人材)がGenAI部門に吸い上げられた。
これにより、研究者の多くはメタ社内のGenAIに異動したものの、一部は競合他社に移籍したり、研究中心のスタートアップを立ち上げたりした。
メタ社内からは懸念の声も聞かれる。
短期的な製品開発を優先するあまり、実験的な研究から生まれるはずの革新的なブレークスルーを生み出す能力が低下しているというのだ。
その結果、中国のディープシーク(深度求索)のような新興勢力に不意を突かれるなど、競争上も後手に回っているとの指摘もある。
メタの広報担当者は「FAIRへのコミットメントは揺るぎない」と強調し、ピノー氏の後任としてFAIR共同創設者のロブ・ファーガス氏を任命するなど、長期研究への継続的な取り組みを強調した。