
(スポーツライター:酒井 政人)
栁田が同タイム決戦を制す
2年に一度開かれる陸上競技のアジア選手権が5月27~30日に韓国・クミで行われた。9月に開催される東京世界陸上に向けて重要な大会。日本は金5、銀11、銅12の合計28個のメダルを獲得した。活躍した選手たちは帰国後、羽田空港で取材に応じて、大会を振り返った。
男子100mは21歳の栁田大輝(東洋大)が19歳のプリポン・ブーンソン(タイ)と大接戦を演じた。10秒20(+0.6)の同タイムとなったが、1000分の1秒までの計測で栁田が10秒194、ブーンソンが10秒196。前回王者が昨年のU20世界選手権の銀メダリストを0秒002という僅差で抑えた。
「連覇になりましたけど、納得いく走りはできませんでした。前半で勝負を決めようと思っていたんですが、どっちが勝ったかわからないような展開になってしまいました。前半をもうちょっと前でレースをしたかったのが正直なところです」
持ち味である前半の爆発力は不発だったが、その原因はハッキリしている。
「連戦で疲弊していたので、試合の合間に最低限の練習だけをやっていた感じだったんです。身体がスカスカになっていて、決勝はちょっとしんどかったですね。車でいうエンジンの馬力が落ちているような状態でした」
今季は4月下旬の日本学生個人選手権(予選、準決勝)を経て、5月8~11日の関東インカレはリレーを含めて5本のレースに出場。100mは追い風参考ながら9秒台を叩き出した。そして5月18日のセイコーゴールデングランプリは今季ベストの10秒06(+1.1)で連覇を果たしている。
アジア選手権では東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)を目指していただけに、「標準を切れなかったのが心残り」だという。それでも、「最低限勝てたのは良かったですし、走りのレベルというか、平均値は上がっているかなと思います」と手応えも感じている。
6月上旬の日本インカレは、「100mはちょっとという感じになるかな」と個人種目は回避して、7月上旬の日本選手権で“勝負”をかけることになりそうだ。
「アジア選手権は連覇しましたが、日本選手権は一度も勝っていません。もう一回練習を積み直して、数段階走りのレベルを上げていきたい。100%以上の走りができれば、前半で『勝てる』と思えるようなレース展開に持ち込めるかなと思っています」
昨年の日本選手権は坂井隆一郎(大阪ガス)が10秒13(-0.2)で優勝。栁田は東田旺洋(関彰商事)と同タイム(10秒14)となったが、0秒005差で敗れて、パリ五輪の個人出場を逃した。“アジア王者”が国立競技場で100%のレースを実現できれば初優勝だけでなく、9秒台が期待できるだろう。