(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月22日付)

今頃はもう、誰の目にも明らかなはずだ。米国の大学に対するトランプ政権の攻撃の目的は、反ユダヤ主義との闘いではない。
これは独立した思考を育む機関を政府の支配下に置こうとする試みだ。
ドナルド・トランプを旗印とする政治・社会運動にとって、大学は米国のリベラル派エスタブリッシュメント(支配階級)の中枢に位置している。
リベラリズムを打倒するのであれば、一流大学を倒さなければならない。
「大学は敵」、ハーバード大に不当な要求
J・D・バンスは2021年に「大学は敵だ」と題する講演をしている。
後に米国副大統領になるバンスは「我々はこの国の大学を誠実かつ果敢に攻撃しなければならない」と主張した。
ここで、バンスの講演がイスラム組織ハマスによる2023年10月7日のイスラエル襲撃の2年前に行われたことに注目するのは重要だ。
だが、ガザ紛争に対して大学キャンパスで繰り広げられた抗議デモは、「MAGA(米国を再び偉大に)」運動に攻撃の突破口を与えることになった。
そして今、トランプやバンスなどは偽善的に、復讐を果たすために反ユダヤ主義の批判を「道具」にしている。
トランプとその支持者たちは真実の一端を手に取り、そこから何かグロテスクなものを作り上げた。
ハマスによる襲撃後、米国の様々な大学で一部の教員や学生が一線を越えて反ユダヤ主義に陥り、テロリズムを賛美したのは事実だ。
一部のユダヤ人学生は嫌がらせを受け、ユダヤ人であることを隠す必要があるとさえ感じた。
大学の学長は反ユダヤ主義問題に関する議会の公聴会で愚かな返答をし、辞任に追い込まれた人もいた。
だが、トランプ政権の反ユダヤ主義問題タスクフォースが4月11日にハーバード大学に送った書簡に記されていた要求は、はるかに踏み込んだ内容だった。
書簡は「視点の多様性」を強制するという名目の下で、基本的に学生の受け入れ方針や教員の採用、学生と教員双方の政治的見解を審査する権限を連邦政府に与えるよう要求していた。
驚くまでもなく、ハーバード大は要求を拒否した。
キャンパスに広がる恐怖と学問の自由の死
バンスは昨年のインタビューで、大学に対処する手本としてハンガリー首相のオルバン・ビクトルを挙げた。
オルバン政権下では、慈善家ジョージ・ソロスが創設した中央ヨーロッパ大学がハンガリーから追放された。
バンスは米国の大学にも「存続か、あるいは教育に対してはるかに偏りが少ないアプローチを取るかの選択」を迫るべきだと発言した。
トランプ政権はハーバード大への連邦政府の助成金と同大の免税資格、外国人留学生を受け入れる能力を脅かしている。
政権が米国で最も有名で最も裕福な大学を屈服させることができたら、他の大学もすべて追随すると思っていい。
そうなれば米国の学問の自由が死んだことになる。
反ユダヤ主義の批判を大学攻撃の中心に据えることは、偽善的ではあるが、戦術的には巧妙だ。
ユダヤ人への憎悪は広く恥ずべき行為と見なされており、その認識は正しい。
あからさまな反ユダヤ主義を露呈すれば――あるいは十分に力強く反ユダヤ主義と戦わなかっただけでも――仕事や助成金が危うくなる。
ガザ地区でのイスラエルの戦争への反対と反ユダヤ主義との違いをぼかしておくことは、トランプ政権とイスラエルのネタニヤフ政権にとって都合がいい。
だが、この2つは明らかに同じものではない。コロンビア大学やハーバード大学などのキャンパスで抗議した学生の多くはユダヤ人だ。
大学に対するトランプ政権の攻撃は今、恐らくは意図的に、親パレスチナ活動家以外にも大きく広がる恐怖の雰囲気を生み出している。
1000人以上の外国人留学生が多くの場合は曖昧な根拠に基づき、ビザ(査証)を取り消されたり在留資格を変更されたりしたと考えられている。なかには身柄を拘束された人もいる。
米国に滞在している100万人以上の外国人留学生は慎重に行動するよう忠告されている。
例えばボストン大学は、緊急連絡先を用意し、親が拘束された場合に子供を保育所から引き取る権限を与えられた友人を決めておくなど、「個人の安全計画」を準備するよう学生に呼びかけている。