(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年5月28日付)

その名はボンド。トレジャリー・ボンド――。
ドナルド・トランプの動きを止めること、少なくともトランプに考え直させることができたのは、これまでのところ米国のトレジャリー・ボンド(財務省証券=米国債)だけだった。
共和党には立ち向かう気力がなく、民主党は取り乱すばかり。
企業経営者は逃げ隠れ、米国の友好国はトランプを刺激しないようにつま先で歩いている。まるで地雷原扱いだ。
トランプの動きを阻止する判断を下す判事もいるが、たとえて言うなら自転車のギアに砂を投げ入れているようなもので、進行方向を変えるには至っていない。
ロシアのウラジーミル・プーチンを除けば、トランプが最も恐れるのはカネの価格、すなわち金利の上昇だ。
膨れ上がる公的債務と国債市場
だが、その恐怖心は散発的にしか生じない。
ドルの下落とともに米国債の価格が急落する場面はこれまでに2度あった。外国人投資家は、米国債を保有するならリスクに見合ったリターンがほしいと考える。
債券の価格下落は利回りの上昇を意味するため、ドルと米国債は逆方向に動くのが普通だ。
最初に同じ方向に動いた今年4月には、トランプが世界を相手に仕掛けていた関税戦争を90日間停止した。すると米国債は値を戻した。
2回目の下落は5月下旬、トランプが欧州連合(EU)を相手に経済戦争を再開し、輸入品に50%、iPhoneにも25%の関税をかけると揺さぶりをかけた時に起きた。
米国債市場がかんしゃくを起こしたこと、そして欧州委員長のウルスラ・フォンデアライエンから「非常によい電話」があったことから、トランプはタイミングよく説得に応じ、関税発動を再度延期した。
米国の公的債務が山のように積み上がっている――対国内総生産(GDP)比は123%で第2次世界大戦以降2番目の高水準だ――のは、決してトランプ一人の責任ではない。
ビル・クリントンが均衡財政を実現して以降、米国の政権は代々、財政赤字を増やしてきた。
グランド・バーゲン(大計画)で共和党との包括的な合意を試みたバラク・オバマを除き、歴代大統領は米国の財政悪化を無視してきた。
最もひどかったのはジョージ・W・ブッシュとトランプで、財源なき大型減税を行った。
僅差の第3位はジョー・バイデンだ。歳出が増えているのに増税の努力をほとんどしなかった。