財政基盤の脆弱性も心配される。現在の年間予算はおよそ9億~10億円。全額国費で賄われているが、これは米国や英国、ドイツのナショナルアカデミーが受けている公的資金とは比較にならないほど少ない額で、実質、手弁当の活動も多いと聞く。

 法案では、政府が必要な金額を「補助することができる」としているが、2004年に法人化された国立大学が、翌年から運営費交付金を年1%ずつ減らされていった事実に照らしても、将来にわたり同規模の補助金が確保される保証はない。当然、外部の委員会の評価結果もその額に反映されていくだろう。

 個々の会員の学問の自由や思想・信条の自由が直接、脅かされる危険性すらある。坂井学・内閣府特命担当大臣は5月9日の衆議院内閣委員会で「特定のイデオロギーや党派的主張を繰り返す会員は今度の法案で解任できる」と答弁した。かつての思想統制をほうふつとさせる発言だ。

「学術会議が政府従属的な疑似ナショナルアカデミー、似非(えせ)ナショナルアカデミーに変貌してしまう」

 6月3日の参議院内閣委員会で、参考人の川嶋四郎・同志社大法学部教授がそう訴えたのも当然だろう。主要国のナショナルアカデミーでは、中国とロシアで会員選考に政府の介入の仕組みがあるが、英米仏には存在しないという。

日本学術会議法人化法案を巡る主な論点(図:共同通信社)

経緯の問題

 法案提出の経緯にまつわる問題にも触れておきたい。

 そもそもの発端は、2020年10月に起きた、当時の菅義偉首相による新会員6人の任命拒否だった。

 日本学術会議法では、首相による任命はあくまで形式的なものとされ、1983年の国会答弁で政府自身がそれを認めている。任命拒否の違法性が指摘され、批判が高まる中、菅氏は具体的な理由の説明を拒んだ。

 問題を棚上げする一方で、政府は「活動が見えない」などとして学術会議への圧力を強め、与党の自民党は学術会議の「改革」に向けたプロジェクトチーム(PT)を設置した。今回の法案は、20年12月に自民党PTがまとめた提言に近い内容になっている。

 任命拒否を巡っては、2018年に政府が法解釈を密かに変更していたことも明らかになっている。変更の経緯が分かる文書の全面的な開示を求めた裁判で、東京地裁は5月16日、「公益性が極めて大きい」として開示を命じる判決を出した。政府は控訴し、係争中を理由に開示を拒否している。

日本学術会議を巡る経過(図:共同通信社)

 参議院内閣委員会では、委員から「法案ができてから公開されても遅い。法案審議をいったん止めて判決が出るまで待つべきだ」という意見も出ている。