米マサチューセッツ州にあるバーバード大学(Pixabayからの画像)

 またまたやらかしてくれました。米国トランプ政権によるハーバード大学への介入や圧力です。一連の経緯を振り返っておきましょう。

 5月22日、トランプ政権はハーバード大学にまず「留学生受入れ資格停止」を「通達」しました。

 これは何を意味するか?

 ハーバード大学は2025新年度以降、留学生の受け入れができなくなります。

 いま現在も、ベルギーの王位後継順位第1位、エリザベート王女(23)も含めて多くの「留学生」が在籍していますが、これらの在学生も通学継続が困難になる可能性がある措置です。

 日本でいえばどんな状況か?

 ハーバード大学は州立でも合衆国立でもない、私立大学です。早稲田大学や慶応義塾大学などの私学に「新年度からは留学生は採用できない」、いま現在在籍している学生には「通学を認めない」という命令を国家が出していることになる。

 このような命令を国に下されたら、例えば、留学生が大学に払った学費はどうなるのか。

 米国の名門私立大学の学費は、日本の大学とは比較にならない年間数百万円から場合によっては1000万円を超えるケースも珍しくありません。

 そんな高額な授業料を払ったのに大学に通えなくなってしまう可能性もある。そうした兼ね合いなど、何一つ考えないメチャクチャな政策であるのは明らかです。

 ナチスドイツが行ったユダヤ人排斥と同レベルの暴挙であるのは明らかでしょう。それが後で述べるように米国を世界一の科学技術大国にのし上げる要因の一つになったわけで、皮肉としか言いようがありません。

 なぜ、こんなことになったのか?

 トランプ大統領を支える岩盤支持層は白人労働者層と考えられ、彼らの多くは十分な教育を受けておらず、資産も少ない。

「レッドネック」(日焼けして首が赤くなっているから)「ヒルビリー」などと呼ばれる、従来は政治に関心がなかった人々。

 人口割合としては決して少なくない低見識層が、2015~2016年以降、投票所に足を運ぶようになって、米国は変質し始めました。

 それまでの、少数のパワーエリートが動かしてきた米連邦政府を根底からひっくり返す原動力となり、高校大学程度の教育が前提とする人権や国際常識など無関係に「よそ者は出て行け」式の本音を言ってくれるトランプ氏に溜飲を下げた。

 米大陸における白人が、よそ者そのものにほかならないのですが、そういう本当のことは、どうでもいい層が大挙してトランプ氏を支え、議会への殴り込みなどもしているわけです。

「ハーバード」は高学歴、リベラルの象徴として叩かれているだけで、特段、何らかの先行き見通しがあるわけではなく、一過性の内国アジテーションとしてスケープゴートにされているだけです。

 まさに「ユダヤ人はゲットーへ」のナチスと変わらないなかなかなことをしている。

 ただ、日本はここで「抗議」するばかりが能ではありません。

ナチスもトランプにはビックリ

 トランプ政権の通達が出た翌日の5月23日、米国連邦地裁は迅速な「差止め」を決定しました。在学生がいきなり登校不能になる事態は避けられた格好になっており、今後、裁判所による審理が進むことになります。

 それでも問題が解決されたわけではなく、学生たちは不安な日々を送らなければなりません。

 今回、東京大学は反応素早く「ハーバードで学べなくなった学生の一時受け入れ」を発表、「学び続ける権利を保障」と手を挙げました

 ただ、これにどの程度、ハーバード側が見向きしてくれるかは定かでありません。

 私たち東京大学はウクライナ戦争勃発時、約20人の学生を受け入れ、レスキューした経緯があります。

 その背景には、ウクライナ国内の大学と比べて、日本の大学が必ずしも見劣りしないという状況がありました。

 いま早慶、あるいは同志社大学や立命館大学など名だたる私学の雄に通う学生が何らかの支障に巻き込まれたとして、ほとんどの国民がその名前を聞いたことがないような「●●大学」が「受け入れますヨ」と手を上げたとして、果たしてどの程度のリアクションが期待できるか?

 これが英国のオックスフォード大学やケンブリッジ大学というような世界のトップランナーであれば全く違う話になります。

 しかし、残念なことにここ20年ほどの大学運営の暴政の影響もあり、我らが東京大学の現状はかなりお寂しいことになっている。

 これは、私の代々の母校でもあり27年来勤務しているこの大学生え抜きの一教授として、率直に記さねばなりません。

 とはいえ、状況の総体を見渡すとき、今回の「トランプ自爆」は日本にとって、大学など知的セクターにとっても産業界にとっても、かなりの「好機」になっているのは間違いありません。

 その背景を展望してみましょう。