
(歴史家:乃至政彦)
戦国時代独自の史料に「陣立書」というものがある。その解釈には
〈兵種別編成〉と陣立書
今回は、「陣立書」について簡単に説明したい。
前回の記事(「戦国時代の「軍制」はどのように進化したのか?〈領主別編成〉から〈兵種別編成〉へ、その違いと過程」)で、戦国時代以前の武士の軍隊像について述べさせてもらった。その概略は次のとおり。
10年以上前、「戦国時代の軍隊は、領主別編成から〈兵種別編成〉への移行期にあった」とする説が提起され、私も賛意を示した。そこに部分修正を加えるものである。
この説は「中世武士の軍隊は、領主たちが自発的な兵数と武装で参陣している。だから画一的な軍隊編成は困難だった」として、領主別編成(数人から数千の部隊が自分だけの好きな武装で集まる兵種のまとまりがないバラバラの編成)で、それが江戸時代に入るまでに〈兵種別編成〉と化していったとするものであった。納得感が強い。
ところが、考え直してみると、武士というのは、弓、太刀、馬上のいずれの武器も扱える万能戦闘員である。
現場で総大将に「弓隊100人を作れ」と言われたら自発的に弓だけで集まり、100人の兵種を作れないと話にならない。
ゆえに武士は領主別で集合するが、彼らは制度化されるよりも前から、実際には兵種別の編成ができたのではないかと説明させてもらった。
ここからが今回の本筋になる。戦国時代になると、このようなことができなくなってしまうのだ。そしてそれが「陣立書」という史料の登場につながっていく。