
参院選を前に、各党は減税や物価高対策を競い合っている。その一方で、国家の骨格をどう描くかという「国土のグランド・デザイン」は、ほとんど争点になっていない。2月には村上誠一郎総務相が「極端なことを言うと、県庁も全部いらない」と発言し波紋を広げたが、本質的な議論へと発展することはなかった。人口減と東京一極集中が進む中、「多極集中」という構想が現実解なのではないか――。現役国会議員秘書の大井赤亥氏が提言する。
(大井 赤亥:衆議院議員政策担当秘書・広島工業大学非常勤講師)
ポピュリズムに引き寄せられる各党
7月の参院選をめぐり、国民民主の「103万円の壁」が支持を受けたせいか、各党はその二匹目のどじょうを求めて生活支援策を競いあい、政治はそこはかとないポピュリズムの磁場にも引き寄せられている。
しかし、この間、とんと議論されなくなったのが、人口減少に対応した行政制度改革、とりわけ地方分権や都市分権の課題である。
少子化対策は喫緊の課題だが、政府は国民に出産を強制することはできない。雇用の創出や経済成長も重要な課題だが、政治にイノベーションを創出する力はなく、行政にできることはあくまで競争の条件整備である。そこにあって人口減少を見越した行政制度改革は、政治が自らの守備範囲として取り組める最も明白なアジェンダの一つであろう。
人口増時代における政府の仕事は全国画一だった。しかし、人口減時代に入ると課題は都市、郊外、中山間や島嶼部で多様になっていく。変化する時代にあって、「不都合な真実」から目を背けず、「未来の可視化作業」に取り組み、行政の公共的役割を再定義していくことが問われている。
その問題意識に基づき、分権改革を通じた国土のグランド・デザインを問うことは政治の任務であろう。参院選を前に、政府から自治体への分権改革をめぐり一石を投じてみたい。
人口減時代に政府が果たすべき役割
日本の人口は2008年に1億2800万人でピークを迎え、その後、急速に減少に向かい、2050年には1億人になると予測されている。今後しばらくは毎年60万~100万単位で人口が減っていく算段であり、日本は歴史上に例のない「静かなる有事」に見舞われることになる。
第二次大戦後の人口増加時代において、行政の課題はシンプルで画一的だった。学校、道路、上下水道、空港、港湾といったインフラ整備が中心であり、それを全国均一に整備する「国土の均衡ある発展」(田中角栄)が求められた。
個人も生き方も同質的なものが想定され、男性は終身雇用の下に正社員として働き、女性は専業主婦としてケア労働に従事するモデルが一般的だった。人口増加時代とは、そのような「集団で一本の道を上る時代」であったといえる。
このような人口増加時代にあって、中央集権型行政システムは効果的に機能した。地域の画一的なニーズに対して政府が統一的な制度を定め、自治体を国の出先機関としつつ補助金を通じて成長の果実を分配したのである。その結果、公平なナショナル・サービスが担保されたと同時に、全国津々浦々に「金太郎飴的な街づくり」が広がってもいった。
しかし、人口減少時代になると、少子高齢化の進展には地域差が大きく、地方の課題は多様化し、それぞれの自治体が個別の課題を抱えることになる。たとえば中山間や島嶼部では過疎化、地方都市ではシャッター街や産業の空洞化、大都市では住宅問題や「孤独」、コミュニティの機能不全などである(広井良典)。
人口増加に迫られる政府の対応が「画一的」であったのに対し、人口減少に迫られる行政の対応は「多様」であることを求められる。それゆえ、地域の多様な課題に応じて「国土の多様なる展開」が必要になるのである。
そのような行政を可能にするのは、中央政府よりも自治体であろう。多様化していく地域住民のニーズに応じて、分権改革が必須の課題となっていくはずである。