(3)2024年ルーマニア大統領選挙へのロシアの選挙介入
ア.国家防衛最高評議会の情報文書
本項は、英BBC「ルーマニアの憲法裁判所、大統領選第1回投票を無効と判断 勝利候補への影響工作が明るみに」(2024年12月7日)を参考にしている。
2024年11月24日の大統領選挙(第1回投票)では、泡沫候補と目された親ロシア派のカリン・ジョルジェスク氏が現職の首相ら有力候補を抑え、23%の支持でトップ当選した。
憲法裁判所は11月28日、大統領選挙の第1回投票について、票の再集計を命じた。
動画共有アプリ「ティックトック」が、この投票で予想外の首位となったカリン・ジョルジェスク氏に「優遇措置」を与えたとの疑惑を受けての判断であった。
ヨハニス大統領は、選挙への介入を国家安全保障上の問題として、11月28日に国防最高評議会の緊急会議を招集した。
ヨハニス大統領は12月4日、国家防衛最高評議会の情報文書を機密解除した。
この文書は、2016年に「外国国家」によって作成された約800件のティックトックアカウントが、選挙直前の2024年10月に突然フル稼働し、ジョルジェスク氏を支持していたことを示唆した。
さらに、第1回投票の2週間前には、別の2万5000件のティックトックアカウントが活発化していた。
ルーマニアの対外情報機関は、数万件のサイバー攻撃やその他の妨害行為を含むハイブリッド攻撃を行っていた「敵対国家」はロシアだと指摘した。
国内情報機関は、ジョルジェスク氏の突然の人気急上昇について、同一のメッセージやインフルエンサーを含む「高度に組織化された」ゲリラ的なSNSキャンペーンに起因するとした。
ジョルジェスク氏を宣伝するティックトック動画には選挙コンテンツとしての表示がなく、ルーマニアの法律に違反していたとされる。
イ.あるインフルエンサーの証言
情報当局などが公開した文書では、ジョルジェスク氏は選挙活動費をゼロだと申告していたが、100人以上のインフルエンサーが宣伝に関与し、報酬として計約38万ドル(約5700万円)が支払われた。
ジョルジェスク氏に関係するアカウントは約2万5000にのぼったとしている。ジョルジェスク氏はこうした指摘を否定している。
約5万人のフォロワーがいるアレックス・ストレミツェアヌ氏(27)は、「投票率を上げるキャンペーンとして投稿を請け負った」とティックトック投稿で告白した。
インフルエンサー向け仲介アプリで引き受け、マニュアルに従って、大統領に求める資質などを語った自身の動画に「#大統領選挙2024 」と付けた。
特定候補を支援する目的ではないと説明されていたが、動画には「ジョルジェスクに投票します」といったコメントが大量に投稿されたという。
ストレミツェアヌ氏は読売新聞の取材に、自身の動画についたコメントの多くは「偽アカウントからだった」と説明した。
(出典:読売新聞「フォロワー5万人のインフルエンサー『報酬もらった』…ルーマニア大統領選巡り『関与を後悔』」2024年12月9日)。