ウクライナはドローンだけでなく、155ミリ榴弾砲や砲弾の生産能力を飛躍的に向上させている(写真は3月5日、ドイツで行われた「M777A2」榴弾砲の発射訓練、米陸軍のサイトより)

 米国の支援はウクライナにとって命綱である。

 米国や欧州などの西側諸国は、ロシアが軍事侵攻を始めた2022年2月以来、ウクライナに対し支援を続けてきた。

 ドイツのキール世界経済研究所が2025年2月、各国の2024年12月末までの支援額をまとめた報告書を公表した。

 同報告書によると軍事・人道・財政支援の総額は2024年12月までに2670億ユーロ(約42兆円)に上った。

 このうち、米国の支援額は1140億ユーロで全体の4割を占めている。なかでも軍事支援は640億ユーロで、武器も供与してきた。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2024年11月19日の米FOXニュースの番組で、ウクライナの主要な軍事支援国である米国が資金援助を打ち切れば、ウクライナは戦争に負けるだろうと述べた。

 現在のところ、ウクライナへの米国の支援の姿勢は曖昧である。

 米国のドナルド・トランプ大統領は、世界各地の戦争に対する米国の関与を終わらせ、代わりに米国民の生活向上のために税金を使うことを公約に、大統領選を戦った。

 米国では政権与党の共和党の党員の多くが、税金をウクライナに投入するのをやめるよう望んでいる。

 こうした思いは多くの米国の有権者も抱いている。

 2025年4月17日の米シンクタンク、ピュー・リサーチ・センターの世論調査では、ロシアによる侵攻からウクライナの自衛を支援する責務が米国にあるという割合は44%で、前回(50%、2024年11月)から6ポイント低下した。

 さて、「米国第一主義」を掲げるトランプ政権の登場により今、世界は翻弄されているが、中でも外交・軍事と経済で深く結びついていた大西洋同盟(注1)にひびが入り、欧州は自立へとかじを切ったように見える。

(注1)大西洋同盟(Atlantic Alliance)には、NATO(北大西洋条約機構)およびより広範な米欧協力(transatlantic cooperation)が包含される(筆者)。

 その動きの一つが「デンマーク・モデル」である。

 米国がウクライナから手を引いたときのことを念頭において考案されたもので、ウクライナの防衛産業に資金を提供するという新しい軍事支援の形である。

 既に2024年11月、ウクライナのゼレンスキー大統領の口からその言葉は発せられていた。

「私たちはウクライナにおいて『デンマーク・モデル』という防衛産業発展モデルを構築した」

「デンマーク・モデル」とは、武器や弾薬を供給する従来の軍事支援とは違い、欧州諸国がウクライナ政府と契約を結んでいる資金難の同国武器メーカーに対し、ウクライナ軍向け装備を生産するための資金を提供することである。

 これにはロシア領内を攻撃できる長距離ミサイルやドローンも含まれる。「デンマーク・モデル」の最大の利点は同じ武器を安価で製造できることである。

 現在すでに戦場に投入されているウクライナの自走榴弾砲「ボフダナ」は、デンマークが約81億円の資金を提供しウクライナ国内で18台を製造した。

 1台当たり約4.5億円の計算である。これまで西側諸国から供与されていた同じ規模の自走榴弾砲の生産コストは9億円前後と言われ、約半額で製造できている。

 なぜか。

 ウクライナは伝統的に非常に技術が進んだ国で、ソ連時代には多くの兵器が製造されていた。今もウクライナには軍事兵器を製造するための大きな能力や余力があるからである。

 また、現在、ウクライナの戦場では、ドローンと砲撃能力が戦場の優位性を左右する重要な要素となっている。

 従って、本稿では、ウクライナのドローン・榴弾砲・砲弾の製造能力についても述べてみたい。

 以下、初めに「デンマーク・モデル」に関連する事象について述べ、次に「デンマーク・モデル」について述べ、最後にウクライナの兵器製造能力について述べる。