バブルが弾けた男の「麻雀放浪記」

「中野、阿佐ヶ谷、竹ノ塚、綾瀬、門前仲町、大山、田無、八千代台、ひばりが丘……。東京周辺の雀荘を渡り歩きました。雀荘の従業員というのは、麻雀にハマって抜けられなくなった人たちばかりなんです」

 麻雀店の従業員は、メンツの足りない卓に入る。ところが、そこで賭けるお金も、席代も、店は出してくれない。すべて従業員の自腹だ。

「結局、従業員はお金が払えなくなり別の雀荘に『飛ぶ』。とんでもない人生、底辺ですよ。自分は消費者金融からの借金も100万円くらいあって、利息だけを支払い続ける日々でした」

 両親が離婚と再婚を繰り返す複雑な家庭で育ったEさんには、手を差し伸べてくれる人もいない。給料をもらっても、麻雀で消える。休みの日は喫茶店に入る金すらなく、近所をブラついた。自立の道が閉ざされたまま「失われた20年」が過ぎた。

「自分の中にあったのはあきらめ。持ち金はあっても数千円、家もない。生活を変えたいという気持ちはあったけど、やり方がわかりませんでした」

 ようやく麻雀から逃れたのは、ひばりが丘の雀荘にいた時。店のやり方に腹を立て、もうホームレスでもいいとネットカフェに「飛んだ」。その時の、ネットカフェの貼り紙が転機になる。すでに54歳になっていた。

 そこには、ハローワークに相談して介護の「初任者研修」という資格を取れば、住居や生活費・資格を取る費用も出してもらえると書かれていた。介護の仕事に就けば、これらの金は返済不要だという。

「排せつの世話など、自分にはとてもできないだろうと思いましたが、もうやるしかないなと」

 Eさんは東京赤羽にある団地に2カ月間住んで、介護の資格を取った。この団地から資格を取るために一緒に通学した人の半分以上は、経営していた飲み屋を潰してネットカフェに寝泊まりしていた人、うつ病で仕事を辞めた人など、「ワケありな中高年男性」が多かったという。