財政が逼迫する英国に原潜基地や核弾頭数を増やせるのか

 NATOはこれまで米国の核ミサイル・長距離爆撃機が「同盟国にとって最大の安全保障」という立場だった。欧州の同盟国と共有された戦術核は政治的な目的にしか寄与してこなかったが、安全保障を貿易交渉の取引材料に使うトランプ氏の再登場で欧米の信頼は土台から揺らぐ。

 AUKUSの枠組みで造られる攻撃型原潜は通常兵器の巡航ミサイルや魚雷しか搭載できないという政策上の厳格な制約が課されているが、技術的には核巡航ミサイルの導入は可能というグレーゾーンが残されている。「死の4人組」と呼ばれる中国やロシア、北朝鮮、イランの脅威がどこまで増大するか予測できないからだ。

 英国が核抑止能力を増強し、欧州がF35-Aの配備でステルス性のあるオプションを持てばロシアの暴走を抑止できる可能性は高まるのかもしれない。しかし財政が逼迫する英国に原潜基地や核弾頭数を増やし、高額のF-35Aをどれだけ調達できるのか筆者には疑わしい。

 英国独自の核抑止力は米国の協力が前提になっている。そもそも米国との確固たる信頼関係がなければ、英国も欧州も核抑止力を増強することはできないだろう。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。