
(舛添 要一:国際政治学者)
ドイツでは、5月6日に連邦議会で首相指名選挙が行われたが、指名確実と見られていたCDU(キリスト教民主同盟)のメルツ党首(69歳)は、310票しか獲得できなかった。選出されるには、下院定数630の過半数である316票が必要である。今のドイツの苦悩を象徴するような出来事である。
2月の総選挙
6時間後に行われた第2回目の投票で、メルツは325票を獲得して首相に選ばれたが、このような1回目で決まらないという戦後初の異例の事態となったのは、なぜであろうか。
ドイツでは2月23日に総選挙が行われたが、保守野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)がトップで、得票率は28.6%(2021年の前回は24.2%)、208議席を得た。第2位は極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」で20.8%(同10.4%)・151議席、第3位は与党の社会民主党(SPD)で16.4%(同25.7%)・120議席、第4位は連立与党・緑の党で11.6%(同14.7%)・85議席であった。
自由民主党(FDP)は、与党の一角を締めていたが、途中で連立を離脱した。このFDPは、得票率は4.3%(同11.4%)で、5%条項(比例選での得票率が5%未満の政党には議席を与えられないが、これは、過度な小党分立を阻止するための工夫である)をクリアできず、議席を獲得できなかった。
左派党が8.8%(同4.9%)・64議席、左派ポピュリスト政党の「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」が4.9%(2024年1月に設立)、その他が9.5%(同8.7%)であった。
以上の選挙結果から連立政権交渉が必要になったのだが、唯一の可能性はCDU/CSUとSPDとの大連立しかなく、4月に連立合意が成立した。しかし、両党の議員の中で、大連立に反発する議員の不満がくすぶっており、それが造反につながったと見られている。
また、今年の1月に、メルツは野党党首として、移民・難民対策の厳格化を求める決議案提出を主導したが、それをAfDの賛成を得て可決させた。このことが、AfDを拒否するSPDなどの不評を買った。それが、今回の首相指名選挙での造反撃の背景にあったようである。
メルツは直ちに組閣し、新政権が発足した。首相以外の閣僚は、男性が9人、女性が8人、CDUが10人、SPDが7人である。CDUからは、ヨハン・ワーデフール外相、カテリーナ・ライヒェ経済・エネルギー相、SPDからは、ラース・クリングバイル副首相兼財務相、ボリス・ピストリウス国防相(続投)が指名された。