写真提供:ロイター/Jaap Arriens/NurPhoto/共同通信イメージズ

 今や半導体は経済安全保障の要であり、各国が自国での開発・製造に注力している。水平分業化された半導体産業において、足元ではファブレス(設計)の米エヌビディアとファウンドリー(製造)の台湾TSMCが大きくリードしているが、技術進化は早く、勢力図がいつ一変しても不思議はない。本稿では『日台の半導体産業と経済安全保障』(漆畑春彦著/展転社)から内容の一部を抜粋・再編集。世界の半導体産業と主要企業を概観するとともに、日本の半導体開発の最前線に迫る。

 米政府によりサプライチェーンを断たれた中国で、有力な半導体企業が続々と誕生している。いったい何が起きているのか?

中国半導体産業の脅威

■ 対中規制後に勢いづく中国半導体産業

 米中関係の悪化など地政学リスクの増大に伴い、中国半導体メーカーは半導体デバイスの国産化、内製化を進めており、その対象はロジック、メモリ、パワー半導体などほぼ全ての領域に広がっている。

 対中規制の反動で、中国各地で有力なファブレス、ファウンドリ、半導体装置メーカーが育ち、存在感を高めている。対中規制に直面しても、米国や韓国・台湾の企業に頼らない、半導体のサプライチェーンを国内企業だけで構築しつつある。中国企業による先端半導体開発の成功も報じられるようになった。

 2020年5月、米国は中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に対する制裁強化を行った。制裁強化により、ファーウェイや傘下にあるファブレスの海思半導体(HiSilicon・ハイシリコン)は打撃を受け企業体力は低下すると見られたが、これら中国企業が倒れることはなかった。

 対中規制といっても、両社間の取引や一般人に対する購入規制はなく、高性能なファーウェイ製の携帯電話は順調に売上高を伸ばした。ハイシリコンからの供給のほかに、TSMCが超高性能の半導体を輸出していたために、ファーウェイ製品は高性能を維持できていたのである。

 また、この間、中国政府は膨大な資金を半導体技術の開発に投じ、中国半導体メーカーはついに5nmレベルの超高性能半導体を製造する能力を持つに至ったとされる。米国の対中制裁は短期的には成功したが、長期的には中国の技術力を上げてしまう結果に終わったということである。