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 DVDの郵送レンタルから始まったネットフリックスは、動画配信サービスの先駆けとなり、コンテンツの自社制作やグローバル展開を加速。ビジネスモデルを次々と塗り替え、今やエンタテインメントとテクノロジーの両業界をリードする主役となった。『NO RULES 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー 著、土方奈美訳/日経ビジネス人文庫)では、同社の独創的な経営手法について、創業者が自らの言葉で初めて明かしている。

 同社の「自由と責任の企業文化」の土台をなす「分散型の意思決定モデル」とは何か。本稿では同書の内容の一部を抜粋・再編集してお届けする。

意思決定にかかわる承認を一切不要にする

NO RULES』(日経ビジネス人文庫)

――リード・ヘイスティングス

 2004年、ネットフリックスがまだDVD郵送サービスしか手掛けていなかった頃の話だ。テッド・サランドスはDVD買い付けの責任者だった。ある新作映画を60枚買うか、600枚買うかを決めるのはテッドで、それをユーザーの注文に応じて郵送するのだ。

 あるとき、エイリアンものの新作が発表され、テッドは大ヒットすると思った。そこで注文書を書きながら、目の前でコーヒーを飲んでいた私に尋ねた。「この作品のDVDは何枚注文したらいいと思う?」。

 そこで私はこう答えた。「あんなのがウケるわけがない。少しにしておけよ」。1カ月も経たずにこの作品は大ヒットになり、ネットフリックスは品不足に陥った。「テッド、どうしてあのエイリアンものをもっと注文しておかなかったんだよ!」と私は叫んだ。「君が少しにしておけと言ったからだ」とテッドは言い返した。

 私が典型的なピラミッド型の意思決定の危険性を感じはじめたのは、このときだ。ここでは私がボスだし、私はどんなことにもはっきり意見を言う。でも新作映画を何本買うかを含めて、ネットフリックスが日々迫られる重要な決断を下すのに最適な人間ではないことも多い。そこで私はテッドにこう言った。

「テッド、君の仕事はぼくを喜ばせることじゃないし、ぼくが認めるような判断を下すことでもない。会社のために正しいことをするのが君の責任だ。ぼくがこの会社をダメにするのを止めなかったら許さないぞ!」