
(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)
一般的な自動車メーカーとは異なる鴻海のクルマ作り
BEV(バッテリー式電気自動車)の世界市場への進出を目論む台湾の電子機器大手、鴻海(ホンハイ)精密工業。先進国メーカーとの最初の協業相手は日本の三菱自動車だった。
5月7日に両社は業務提携の覚書を締結。三菱自動車は鴻海から供給されるBEVをオーストラリア、ニュージーランドに投入すると表明した。

1974年に樹脂メーカーとして発足し、コンピュータ用基板をはじめとする電子部品分野で成長した鴻海の名が世界で一躍知られるようになったのは、米アップルのスマートフォン、iPhoneの製造受託だった。
その鴻海がBEV専業メーカーとして鴻華先進科技(フォックストロン)を設立し、自動車ビジネスに乗り出したのは2020年。翌21年にはさっそく上級セダン「モデルE」、電動バス「モデルT」を発表。22年以降も新しい乗用車、商用車を間断なく公開している。

驚くべきスピード感だが、自動車開発の経験ゼロの鴻海が単独でそれをなしえたわけではない。同じ台湾の自動車メーカーで、日産自動車のモデルのノックダウン生産などで技術力と知見を蓄積してきた裕隆汽車(ユーロン)あってこその力技。フォックストロンも鴻海51%、裕隆49%の合弁会社である。
鴻海の目指す自動車ビジネスの形態は完成車を作り、自社ブランドで売り切ったり、リースを行ったりという一般的な自動車メーカーとは根本的に異なる。電動バスについてはフォックストロンブランドで販売しているが、乗用車については他ブランドでの販売を前提とした開発・製造受託を志向している。
基本となるのは独自の電動プラットフォームMIH(Mobility in Harmonyの略)で、それを活用したクルマ作りは大きく分けて2通りある。
ひとつはフォックストロンがひな形となるクルマを作り、それに他の自動車メーカーのエンブレムを付けて売るバッジエンジニアリング。もうひとつはクライアントとなる自動車メーカーの商品企画について開発、製造を一括で受託するというものだ。
三菱自動車との協業が最初に報じられた今年3月の時点では、三菱自動車サイドが鴻海との関係をどう捉えようとしているのかについては不明な点が多かった。