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 圧倒的な成果をもたらすマーケティング戦略として、売上高1000億円超のBtoB企業が導入するABM(アカウント・ベースド・マーケティング)。日本でも関心が高まっているが、情報や知識の不足から「周回遅れ」の感は否めない。本稿では『法人営業は新規を追うな 重要顧客と最高の関係を築くABM』(庭山一郎著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。日本のBtoB企業がABMを強化すべき理由と具体的な実践ノウハウを、事例を基に解説する。

 ここでは、ABMの考え方に通ずるBtoCの戦略にフォーカス。1970年代後半、顧客データ管理の重要性にいち早く気付いたアメリカン航空が導入した顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)の向上策とは?

LTVを背景に誕生したあるサービス

 ABMに最初に注目したアナリストファームは米国東海岸に本拠を置くITSMAです。2021年にロンドンのABMコンサルティングファーム、モメンタム(Momentum)に買収され、今はMomentum ITSMAとなっています。

 ITSMAが買収される前にABMの年表を作成しており、その最初は1993年にドン・ペパーズ氏とマーサ・ロジャーズ氏が書いた『The One to One Future』という書籍となっています。

 この本は日本でも1995年に『ONEtoONEマーケティング:顧客リレーションシップ戦略』(ダイヤモンド社)として発行されベストセラーになりました。

 この本の中で一つの章を割いて提唱された考え方がLTV(Life Time Value)です。

 LTVは「顧客生涯価値」と訳されることが多いのですが、これはシェアの概念を根底から変えるものでした。

 それまでのシェアは文字通り「市場占有率」ですから、例えば1992年にある県で排気量2000cc以上のセダンタイプの自動車が60万台売れたとして、そのうち30万台がトヨタ製であればトヨタのシェアは50%というものでした。