子どもたちに囲まれる漫画『のらくろ』の作者、田河水泡氏(1950年撮影、写真:共同通信社)

 NHKの連続テレビ小説『あんぱん』への注目が放送回を重ねるごとに高まっている。主人公の朝田のぶは漫画家やなせたかしの妻・暢(のぶ)をモデルにしており、やなせたかしをモデルとした「柳井嵩(やない たかし)」との物語だ。ストーリーの中で、何げなく登場する人気キャラクター「のらくろ」だが、どんな漫画だったのか。作者の田河水泡による創作秘話や、当時の子どもたちの反響などについて、近著『大器晩成列伝』を上梓した著述家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

ストーリーのポイントで何げなく登場する「のらくろ」

 漫画家のやなせたかしは、戦前から戦後へと移り変わるなかで、20代、30代と青年時代を過ごした。

 NHKの連続テレビ小説『あんぱん』では、おのずとその頃のカルチャーが描かれることとなる。当時、人気を博した田河水泡(たがわ すいほう)の漫画作品『のらくろ』も、その一つだ。

 第3週「なんのために生まれて」(4月14日~4月18日放送)では、嵩の母・登美子がいきなり帰ってきて、伯母の千代子とバチバチやり合うことに。そんな中、中学生の嵩は自分の部屋へと逃げ帰る。嵩が部屋で読みふけった漫画が『のらくろ』だった。

 第5週「人生は喜ばせごっこ」(5月5日~5月9日放送)では、嵩が東京から高知に帰省する際に、同級生の健太郎がついてきた。ケンカ中の嵩と暢を仲直りさせているうちに、暢の妹・メイコが健太郎に恋をする。メイコは思い切って、こんなふうに遠回しに告白した。

「うち……好きな人ができたがです。おもしろうて一緒におると楽しくて笑顔が素敵で……」

 しかし、鈍い健太郎は自分のことだとは思わず、「メイコちゃんも面白くて、よか女の子ったい。きっとうまくいくったい」と返事。褒められたことに大喜びのメイコだったが、その目を見つめた健太郎の一言に、絶望することになる。

「誰かに似てると思ったら、メイコちゃん、目がキラキラして『のらくろ』みたいったい!」

 わざわざその場で「描いちゃあね」と、のらくろの絵まで描いて、健太郎はメイコに見せている。漫画の犬に似ている、と言われたら脈なしだろうと、メイコはこの恋を諦めている。

 ドラマの中でなにかと登場する「のらくろ」。確かに当時、爆発的な人気を博していたようだ。一体どんな漫画だったのだろうか。